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この事実に気がついたからには、あの古書は神秘の塊であると同時に、無限の感動をもたらすに相違ないものに思え、私は本に対する好奇心をとうとう抑えられなくなった。
話の流れや雰囲気などお構いなしに、甚だ唐突な質問を男に投げつけたのだ。その本から流れ出る旋律は一体なんなのか、と。
それを聞くと、男は一時たいそう驚いた顔をしたが、すぐにその穏やかな微笑を一層強くすると、歓喜溢れる声色で半ばひとりごちるようにして、言った。
「やはり、あなたは、ほんとうに違いがよく分かる人のようですね」
そして、もう僕はすっかり読み終えてしまっているから、そっくりあなたにお譲りしようと言った。これには私もさすがに驚き、そんな高価なものを受け取るわけにはいかないと、実際椅子ごと後ずさった。何せ数百万はするだろう奇書だ。もしものことがあったらとても弁償できるものではない。
私がひどく恐縮してしまっているのを見ると、男は少しの間、逡巡してから口を開いた。
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