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別に、女性との会話がすんなり進まないほど、異性が苦手と言う質
ではない。
だが大抵の場合、何の気なしに口にした話の端っこを引っ掴まれ、
探るようにプライベートを暴露させられて、最後はオタクバレで引かれるのが
大祐の常だ。
しかし目の前に座る沢田は、その話題に引っ掛かることはなかった。
一方で、会社員の悲しい性か。
店に入ってまず交換した名刺で、互いの仕事先は判明していた。
しかも彼女が役付きというのに、少し驚く。
だが、なんとなくそれは口にしなかった。
というよりも、意図して避けた。
それというのも、偶然見かけてしまった自転車将棋倒しの瞬間、彼女は、
よろめくほど強くぶつかられた訳でもないのに確実に足元がフラついて
いたから。
実際、当初は酔っているのかとも思った。
そしてもし酔っているならば、雨降りの中で女性だし、面倒になって
そのまま立ち去るかもといささか訝しく眺めてさえいた。
だが、倒れた自転車を見下ろし小さく溜息をついた時の彼女は、
酔っているというよりも疲労困憊といった様子。
それだけに、自然と大祐の体も助太刀に動いたほどだ。
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