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うそ……。
なんと、それは笠原。
しかも、一人で苦笑いをした彼がスッと右に一歩ズレた途端、彼の目の前の
扉が音もなく開いた。
どうやら彼は、自動ドアだと思い込んで、隣のガラスの前に立って開くのを待っていたようだ。
プッ……。
真友子は、思わず小さく吹き出した。
そして、応対に出て来たらしい店員と話す笠原の様子を見ながら、店の前を
通り過ぎて真友子は再びわずかに首を傾げる。
あの自動ドア、見間違えるかなぁ。
だが、そう思った真友子の耳に先週の彼の自己紹介が蘇った。
初めまして、大好きです!
あんな言い間違いをしてしまう彼ならば、もしかしたら見間違いもあるかも
しれない。
そう思いながらちょっと立ち止まって振り返ると、店から出たらしい
彼の後ろ姿が、のんびりと遠ざかっていくのが目に入る。
でも、不思議となんか和むわね。
最初に掛かってきた間違い電話に始まり、その後の報告電話。
そんな事が次々と真友子の脳裏に蘇り、気付くと口元が淡く綻んでいる。
そして、再びスーパーへと向かい始めた真友子の足も、なぜかほんの少しだけ軽くなったように感じられていた。
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