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四、 打ち首
入道雲が高くそびえて、蝉がやかましく鳴いている。
三郎は午前の野良仕事を終え、午後は庭で剣術に勤しむ。義父にほめられた太刀筋を鍛えるのだ。
美津が家の縁側に座って針仕事だ。腹は満月のように大きくなり、母になる日も近い。
義父は城から帰ると、三郎に言った。
「明日は木村様を手伝いに行け。浪の河原にて、打ち首がある」
翌朝、腰に大小を差して、道の向こう側、木村家に出かけた。
岡田より二回りも大きな家、人も大勢だった。
「親父様より、話は聞いております。今日はよろしく」
木村藤兵衛と賢五の親子に挨拶されて、三郎は恐縮した。二人とも大きな体だ。
こちらも切腹と係わる家だ。岡田が介錯した後、首級を失った胴を始末するのが木村である。
そして、この家が負う主なる役が罪人の斬首であり、その死体の始末だった。
三郎と家人を含むと、総勢は十人近い。荷車には各種の道具を乗せ、筵で覆った。
木村家の一団が城下を行く。
道行く人が避けて、往来の真ん中が開いた。斬首役人の行列は畏怖されている。
城下町を抜け、田畑となる手前の河原、竹矢来が組まれていた。
見物人が集まり、すでに賑やかだ。酒やら飴やら弁当やら、物売りも来ている。
この時代、処刑は人気の見世物であり、祭りの一つと言えた。
竹矢来の一角に幕が張られている。三郎と木村家の一同は、その中で待つ。
待つ間に着替えだ。タスキを掛け、袴のすそを絞り、手甲足甲を着ける。決闘へでも行くかのよう。
太陽が高くなり、汗がにじんだ。
おおおーっ、見物人が声をあげた。罪人が到着した。
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