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「ありがとね」
女は煙管を上げ、返す仕草。
藤兵衛は受け取ると、そのまま口にした。背筋を伸ばし、プカリと煙をふかした。
女は静かに頭を垂れた。細いうなじが露わになる。
藤兵衛は横目で女を見ていた。女の体から力が抜けた一瞬を狙い、太刀を振り下ろした。
見物の衆から小さく声が出た。
罪人たちの首級は血を洗い落とされた上、晒し台に並べられた。釘で固定され、倒れないようになっている。
ほう、へえ、悪党の死に顔に怪訝な視線が集まる。
見物人の子が石を投げた。男の首級に当たった。どっ、と笑いが起きた。
晒し台の端には女の首級がある。
物売りが果物を前に置いて、ぽんと手を合わせた。
「ええ死に様、見せてもらいました。あんじょう、お逝きな」
それに習って、見物人が次々手を合わせる。見ようによっては、菩薩にも似た首級だ。
晒されている首級は数日とせぬ内に、腐り、変色して崩れていく。虫がたかり、鳥についばまれ、頭蓋骨だけが台の上に残る。
祭りは終わった。
家に帰ると、夕餉の時刻だった。
三郎は箸を付けようとして止めた。膳に並んだ碗と皿が、晒し台の首級に見えた。
食べ始めると、美津が腹痛を訴えた。つい、何か傷んだ物があったか、と思った。
「来た来た、来たよ」
義母が、美和が色めき立つ。陣痛が始まったのだ。
男どもを居間に捨て置き、女たちは奥へ行ってしまった。女たちの祭りが始まったのだ。
翌朝、小さな産声があった。
男が産まれた。名を小太郎とした。
数日後、木元の嫁も男を産んだ。
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