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四、 二度打ち
年が明け、また花が咲いた。
美和が女を産んだ。美津と美和から、美々と名付けた。三郎は一男一女の父になった。
美津は二人目が欲しい、と夜な夜なせがむ。そして、兆しが来た。
今年は、殿が江戸へ上がる。三郎は義父と参勤行列の末尾に付いた。
三郎には初めての長旅である。
江戸屋敷は国の城と同じくらいの面積だった。違うのは、天主閣が無い事。家臣が屋敷の中に住む事。
岡田は屋敷の隅に四畳半ほどの部屋をもらった。他の大半の武士が大部屋だから、役の上からも特別な計らいである。
野良仕事ができず、三郎は暇を持て余した。
屋敷に出入りする中間の者から庭いじりを教わった。庭師の真似事を始めた。
「ついに、武士をやめたか。よう似合っておるぞ」
佐竹一之進、そして山中繁介と内海波之助の三人組が囃し立てた。彼らも江戸に来ていた。
「逃げぬ物、反撃せぬ物を打つのは得意のようじゃ」
太刀筋を鍛える。その目的があったから、罵詈雑言も気にしない。
幹を揺らさず、小刀で枝を打ち落とす。枝を揺らさず、葉を落とす。気を静め、集中しなければならない。
ひゅっ、しゅっ、一振りごとに気合いを込める。
やがて嘲笑は遠くなった。
暑さの盛りが過ぎて、秋が来た。
国の義母から文が届いた。
美津が男を産んだ。十日後、子は死んだ。美津は臥せっているが、小太郎と美々は元気・・・と。
ふう、三郎は息をついた。文を開いたまま、動けなかった。
幼児死亡率の高い時代である。三人産まれて、まだ二人生きている。上等の部類だ。
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