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三郎は腰に一本差しで出かけた。
ひげも剃らず、髷も結い直さぬまま。浪人と言われて、仕方ない風体だ。
坂下の家は下郷町にある。藩の城下にあって、下級武士が住む下郷町は城の外堀であり、上級武士が住む上郷町は内堀だ。
門構え、塀の造り、三郎には居心地の悪い所だ。
城の門前を曲がり、本多屋敷を探した。人だかりがある、武士ばかりか町人もいる。目指す所だった。
屋敷の門には槍の番人が睨みを利かしていた。人集りは裏手へ動く。三郎も習った。
立派な門も塀も正面だけで、横に回ると生け垣だった。裏の生け垣は腰の高さで、庭が丸見えだ。
集まった人に樽酒がふるまわれていた。餅に菓子も出ている。
三郎は干物をもらい口にした。
人の頭越しに庭を望むと、屏風が立てられ、畳が三枚敷かれていた。
切腹の座だ。武士ならば、すぐに分かる。
それを見物させようとしているのだ。
おおお、見物の衆が声を上げた。
切腹の座の対面にある廊下に三人が現れた。裃の検使たちが並んで着座した。
庭の奥の床几に、若い武士と年増の女が腰掛けた。親子であろうか、二人とも顔が暗い。
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