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 女の赤い艶(なま)めかしい唇が、キスチケットを挟んだ少女の唇に近付く。チケットが紅で赤く染まる。唇が触れるか触れないかの距離。耳の奥で反響する音楽。見ている女達は興奮し、瞳を濡らす。唇が、赤い唇が少女を喰う。ボンデージ姿をした仮初めの女王様は赤い唇をすっと少女から離し、身体をくねらせ、腰を振り、舞台下の女好き少女達に魅せる。股を開き、M字開脚をしながら次のお大尽様の元に向かう。  私は音楽に乗りながら、その様子を間近でじっと見ていた。少女達はお金を払って女とのファーストキスを愉しんでいるのだろうか。それともこういうのは素人童貞みたいな素人キス童貞と言うのだろうか。  アタシはあの人とキスしたい、と横の少女が舞台右側のボンデージ女性をキスチケットで指す。頑張って前に行きなよと、私は彼女の背中を押す。彼女は恥ずかしそうに笑ってそこを動かない。いや動けないというのが正解か。渋谷で行なわれているレズビアンクラブは本日SMナイト。混み合って動けない程の会場。ボンデージ姿のキャスト達にキスを求めるお大尽娘達の熱狂と、それを一目見ようとする観衆。ステージ間近は混み合い、女達がキスするたびに興奮した歓声が上がった。  興奮。灼熱。乱光。爆音。恍惚(こうこつ)。  繰り返されるキス。キス。キス。
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