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――ある夜までは。
今では上っ面な笑みしか浮かべられない。日々、不安が募っていく。だがママは新しい恋人との関係を喜んでいる。ママには沢山の恋人がいたが結婚の話が出たのは初めてかもしれない。喜ばなければならない。ママの幸せを……でも俺の幸せはどこに?
蒲団の中に入ってきたママの恋人の息が俺の耳に触れる。耳の中が唾液で濡(ぬ)れる。中耳炎になったらどうするつもりだ。俺は少し頭をずらす。だが男の舌は追ってきて、耳朶を舐(な)める。執拗(しつよう)に舐める。興奮した息遣いが耳の中に入ってきて俺は不快に感じる。男の手がトレーナーの下へと入ってくる。
俺はピクリと身体を震わせ、固まる。腹の上にある男の手。数時間前にはママに触れていた大きな手。
絶対に声を出してはいけない。薄い襖の向こうから、ママの幸せそうな寝息が聞こえてくる。ほんの少しの距離。
そうここで、今、ここで声を上げればママが起きて、きっと俺を助けてくれる。
それとも俺を罵倒する?
少し前、ママの恋人を奪って家を出て行った姉のように。
「……ッ」
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