05.破られたルール

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 舞台の上で脚光を浴びる時間は終わったのだと、一方的に宣言した男は嘆くように肩を落とした。羨ましいとまで表現していた殺人犯の犯した何か、僅かな変化が気に入らなかったのだ。彼の言う『見事な儀式』はただの作業に堕ちてしまった。 「質問に答えよう」  彼女に関して興味を失ったからの言葉だ。庇ったり逃がしてやろうという気持ちは微塵も残っていない。そう告げるロビンの目は冷たく、口元は嘲笑を浮かべていた。 「殺害方法が変わった理由は?」 「興が殺がれたのだろう。獲物の言動のひとつが彼女の気持ちを逆撫でした。その瞬間に彼女のルールは崩れ、殺さなければならないと判断する。すでに殺す理由もなくなった相手を『片付け』たんだ」  犯人のターゲットを『供物』と評してきたロビンは『獲物』と言い直した。それは彼女にとって被害者が『者』から『物』に変わったともいえる。 「片付けるゴミに気を使う者などいない。だから顔をキレイに残す必要はなく、完全に抵抗を奪う手間すら省いた。なんということか、呪われた彼女はいまや『ロトの娘達』と変わらない」  近親相姦を戒めた旧約聖書の記述の中に、ロトの娘達が出てくる。  2人の娘を持つロトが住まう場所は、世のしきたりで婿が来なかった。困った彼女達は「子孫を絶やすわけにいかない」という理由で、己の父親に酒を飲ませて意識を奪い、実父の子を身ごもったとされている。     
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