01.罪人の予言

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 白と淡い木目を基調とした調度品の部屋は、変わらず整えられていた。散らばっているのはサイドテーブルの上の書籍が数冊と、ベッドの上に放られた上着くらいだろうか。  屋外の穏やかな春の気候と縁遠い地下室は肌寒く、長袖の上着を羽織ってきたコウキでも物足りなかった。 「これはこれは……呼び立ててすまなかったね。稀有なる羊」  笑顔で一礼する男は、まだ撃たれた胸部を包帯で巻いている。固定する為に肩や首近くまで巻かれた包帯によるぎこちなさを感じさせず、彼は優雅に腰を折ってみせた。  薄青のシャツとアイボリーのスラックス姿は、今までの彼が好んだ黒と正反対で違和感がある。  この男の言葉を真に受ける必要はない。本音で悪いと思っている筈がなく、口先だけの謝罪はコウキに届かなかった。 「……何の用だ?」  ぼそりと冷たく返したコウキの態度に、さらに笑みを深めたロビンが革張りの聖書を手に取った。茶の革表紙に金で装飾と文字が刻まれた豪華な装丁だ。まだ手になじまないのか、彼は開いたページを数枚戻る為に捲った。 「数日のうちに、連続殺人が起こる」  預言者のように告げたロビンは開いたページを下にして本を机に伏せる。顔を上げ、しっかりとコウキの目を見据えて言葉を変えながら繰り返した。 「いや、正確には連続殺人が発覚する」     
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