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01.罪人の予言
激しい眩暈……吐き気、そして意識を失ったのだろう。
目の前で殺された『サロメ』と、『ヨハネ』でありながら赤い手を伸ばす殺人鬼―――唯一絶対なる神への冒涜、侮辱を平然と口に乗せる男が差し出した手に指が触れたのは覚えている。
目を開けば、先ほどまでの光景が嘘だったように平和な光景が広がっていた。
大学の構内、芝の上で見上げる空は青く透き通っている。どこまでも広がっている晴天の空に目を細め、あの日の赤と正反対の色を深呼吸で吸い込んだ。
すべては終わったのだ。
血塗れで死んでいたあの男と、すべてを録画したテープが転がっていた。
不思議なことにロビンは逃げる素振りもなく、ベッドにコウキを寝かせたあとは聖書を片手に寛いでいたという。監視カメラが外部から切断されたことに気づいた捜査官と看守が飛び込んだ先で、乾いた血で赤黒い手を挙げて挨拶した彼は、大人しく手当てを受けて今も牢獄の中だった。
なぜ逃げなかったのか……逃げればいいと思わないが、彼にとって本当にここは居心地がいい場所なのだろうか。
考えても答えの出ない疑問を抱え、コウキはゆっくりと芝の上に腰を下ろした。
「失礼します」
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