優しい嘘 前編

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「え?…死んだって…本当に?晶が?…」 10年振りに聞いた懐かしい名前… ずっとずっと忘れる事の出来なかった名前… もう二度と会う事はないと思っていた。まさかこんな形で再会するとはな。棺の中で眠る白くて綺麗な顔をただ静かに見つめそう思った。 「来てくれたんだな…」 その声に心臓がドクンと音を立てる。 葬式の帰り道、後ろから呼び止められゆっくり振り返るとそこには晶と同じく10年振りに会うかつては親友だった男が立っていた。 「柊平…おまえこんな所に居ちゃ駄目だろ…」 「すぐ戻るよ。来てくれてありがとう。きっと 晶…凄く喜んでると思う。」 「なんて言っていいのかわからない…突然の事過ぎて…10年振りだし、ただ驚いてて…病気だったんだって?」 「うん。進行性の癌だった…」 「そうか…」 静かにそう答える俺に柊平は一時の間を置いてから遠慮がちにこう言った。 「…あのさ、こんな事無理なお願いだってわかってるんだけど…どうしてもおまえに話したい事があるんだ。晶の思いも知ってほしいし…時間のある時でいいから来てほしい。いつでも待ってるから。じゃぁ…」 「え?…ちょ、待てよ…えぇ?!」 そう言って強引に手渡された紙を持ち、俺はただ呆然とその場に立ち尽くす… 「カフェ…の名前?話ってなんだよ…今更話す事なんて…」 13年前。出会いは高校の入学式だった。 新しい校舎、新しい制服、新しいクラス、何もかもが新鮮で俺はただワクワクしていた。 中学の同級生とはクラスが離れてしまい見知らぬ顔ばかりの中で俺は何とか友達を作ろうと躍起になっていた。そんな俺と席が前と隣…それが柊平と晶だった。 「なぁ、名前なんて言うの?俺は 倉田洸平(くらたこうへい)!」 「…あ、北川柊平(きたがわしゅうへい)です。」 前の席に座っていた柊平は茶色がかったさらさらの髪をなびかせて俺の方へと振り向いた。窓からの光もあったのかもしれない。しかしその光を抜きにしてもその姿はキラキラと輝いていてその美少年ぶりに思わず息を飲んだくらいだ。けれどそんな事は悟れまいと俺は至って普通に言葉を返す。
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