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冗談じゃない、せっかく桜の花もちらほらつぼみが開きかけで、雪とも合うというのに、そのシャッターチャンスを逃して帰れるわけがないじゃないか。
「じゃあ、せめて数枚だけでも写真を撮って、君と一緒に帰る」
「ダメ、とにかく急いで帰って。時間がないから」
・・・時間? 何のことだろう。とりあえず、レンズ越しに雪山にたたずむ桜の木の写真を撮ろうと、カメラを構えた時だった。
地響きと、小刻みな揺れが感じられた。地震かな? 僕は少し戸惑う。
彼女が、もう一度叫ぶ。
「早く逃げて!」
その直後、轟音とともに、後ろから全身に強い衝撃を受けた。僕の記憶は薄れていった。
次に目を覚ましたのは、一週間後だった。そして、いくつか状況を理解した。
今僕がいるのは病院であること。
救助はされたけど、両足を骨折していて、全治3か月だということ。
僕が山登りしたあの日は季節外れの陽気で、あの山で雪崩が起こったこと。
そして・・・彼女はもういないこと。
あの日の朝に、すでに病院で息を引き取っていたんだ。
ではあの日、僕が山で見た彼女は誰だったのだろう。
そして・・・。
退院後、彼女から届いた手紙をもう一度見ていたとき、ふと写真が目についた。その写真には・・・。
なんと、僕が雪崩に巻き込まれる数分前と思われる写真が入っていた。写真の日付は、もちろん雪崩のあった日。
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