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そんなことを考えていたら、後ろの席に座っている沙織のことがますます気の毒に思えてきた。あの一件以来、沙織は明らかに元気がない。この前の小テストでも、いつもクラストップを取っている沙織が珍しく平均点ぐらいだった。
私なら平均点なんて取れれば大喜びだけど、もちろん沙織からすれば、更に落ち込む原因になる。ここは昔からの大親友として、沙織を元気づける為に、自分が一肌脱ぐしかない。
「あ、あのさ、沙織……」
羽澄は後ろを振り向くと、ぎこちない笑顔で話しかけた。沙織は「何?」と、力なく笑って答える。その表情があまりにも痛ましくて、元気づけるはずが自分の方が悲しくなりそうで、思わず咳払いをした。
「こ、今度面白そうな映画が公開するんだけど、一緒に観に行かないかなーって思って……なんか主人公の男の子と女の子の中身が入れ替わっちゃうみたいで、けっこう期待度高いみたい、な。ど、どうかな?」
ダメだ、これじゃあまるでダメ男のナンパだ。案の定、沙織はうーんと考えた後に「ごめん、あんまり映画は見ないんだ」と、少し気まずそうに苦笑いで答えた。
そうだ、沙織は映画をあまり見ないんだった。
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