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もう十年以上の付き合いになる大親友の性格を忘れていたばかりか、変な誘いをしてしまったせいで、気まずい思いまでさせてしまった。羽澄は「だ、だよねー……はは」と言ってそのまま前を向いて沙織の視界からフェードアウトした。一体、私は何をやっているのだろう……。
「ああ」と嘆くようにため息をついて、羽澄は頬杖をつく。教室ではクラスメイトたちが楽しそうに、恋の話や友達の話やらに花を咲かせている。それを遠目に見ながら、羽澄はこれからのことを考えていた。
沙織には、自分たちが教頭のスキャンダルを掴もうとしていることは話していない。そんなことを話せば、優しい沙織のことだから必死になって止めてくるだろう。
親友としては、沙織に内緒でこそこそするのは少し後ろめたがったが、今は一刻を争う一大事。沙織が変態教頭に返事をするまでに、何としてでも奴のスキャンダルを掴まなくてはならない。
心のモヤモヤを少しでも晴らそうと、羽澄は窓の向こうに広がる夏の空を見上げた。青い空には絵の具で描いたように、くっきりと飛行機雲が浮かんでいる。せめてあの飛行機雲のように、スキャンダルに繋がる糸を握ることができれば……。
そんな願いを届けてくれるかのように、飛行機雲は青空の彼方へと、どこまでも伸びていった。
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