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「行ってきます!」の言葉に、ラーメンを食べているところなのか、「行ってらー」と姉の少し口ごもった声がリビングの方から聞こえてきた。
本当は私が食べるはずだったのに……。
ふんと鼻を鳴らして取っ手を掴み、力一杯に扉を開ける。鋭い夏の日差しと一緒に、しゃわしゃわと蝉の鳴き声が家の中へと転がり込んできた。
「あつー」
羽澄は右手で両目に入ってくる光を遮ると、照り返しが眩しい玄関の外へと一歩踏み出した。
夏だ。そんな当たり前の事実を毎回思わされるほど、この扉一枚の内と外の世界は違い過ぎる。
カメラのピントを合わすように目を細めると、門扉の向こうに麦わら帽子をかぶった沙織の姿を見つけた。風になびく艶やかな長い黒髪と白いワンピースが、沙織の清楚なイメージをより引き立てている。
「ごめん! 遅くなっちゃった」
羽澄はそう言って小走りで門扉まで向かうと、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「別に大丈夫だよ」
沙織が少し首を傾けて、くすっと笑う。
「もしかして、お昼ご飯の途中だったとか?」
「う……、え?」
不意にピンポイントな質問を食らってしまい言葉に詰まった。それを見て沙織がまたくすくすと笑っている。さすが小学生の頃からの親友だ。自分の行動パターンは読まれているらしい。
「いやー、うん。途中では……なかったかな」
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