夏のある日

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 途中どころか始まってもいない。今頃あのラーメンは姉の胃袋の中で、私に食べられなかったことを後悔しながら溶けているのだろう。そんなことを考えて、羽澄は睨むように家の方をちらりと見た。 「やっぱりそうだったんだ。ごめんね、連絡くれたらもっと後でも良かったのに」 「ううん! 沙織のせいじゃないよ。それに十一時半に待ち合わせって言ったの私だし……」  そう、私だ。今日遊びに行くのも、待ち合わせ時間を決めたのも全部私だった。これからはもうちょっとスマホのスケジュールアプリを使いこなそう。そう思って心のメモ帳に書いた。たぶん帰ってくる頃には忘れているんだろうけど……。  門扉を閉めて歩き出すと、早くも額に汗が滲んできた。そういえばハンカチ持ってきたっけと考えた時、蝉の鳴き声の隙間から沙織の言葉が聞こえてきた。 「あ、そうだ。この前、明里が新しいお店見つけたって言ってたよ。今度羽澄も一緒に見に行く?」  目を細めて白い歯を見せる沙織に、「あー、うん……」と羽澄は少し言葉を濁した。  明里は同じクラスの仲の良い友達で、おそらく初芝女子校の生徒の中で、一番美人でスタイルも良い。伝統に厳しく今だに恋愛禁止、バイト禁止のうちの高校で、実はこっそり読者モデルをやっているぐらいだ。そんな明里と私服で遊びに行くとなれば、こちらもそれなりの戦闘態勢で望まなければいけない。 「そうだね……。時間が合えば、ね」     
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