夏のある日

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夏のある日

 ぐつぐつとリズムカルに鍋の中でお湯が踊っている。それにつられて、合図のようにお腹が鳴った。そう、私はこれからお昼ごはんという、大事な場面に差し掛かっているのだ!  元気よく飛び跳ねている熱湯は、自分の名前にピッタリ。戸棚の奥から大好きなチキンラーメンを取り出して、大きなどんぶりに入れる。これがお嬢様学校と呼ばれる、初芝女子高校に通う女の子の休日の過ごし方だと知れば、世の男どもは幻滅するのだろうか?  飯田羽澄はそんなことを考えるも、すぐに意識は目の前のラーメンへと注がれた。ほどよく沸騰した鍋のお湯を注ごうとした時、リビングのドアが開いて姉の夏美が現れた。 「はずみ! 外で沙織ちゃんが待ってるよ」 「あ! 忘れてた! って、あつ!」 勢い余って飛び跳ねた熱湯が右手にかかり、羽澄は思わず鍋を落としそうになった。「あわわ!」と叫び声をあげながら、ギリギリのところでコンロに戻す。 「はあ……あんたって、ほんとどんくさいよね」  夏美が肩を落としてため息まじりに呟いた。 「う、うるさいなあ。ぎりぎりセーフだったんだからほっといてよ」     
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