黒い本の勇者

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「さあ、来い!死にたいのか?────ゼウスボルケーノ!」  何度も、何度も、何度も、魔王は同じ呪文を繰り返し、ルドルフを石畳に転がした。だが、ルドルフは反撃をしない。 「何故、反撃しない?」  そう言ったのは魔王だったが、村人たちもざわつき始めていた。離れていて声は聞こえないが、同じことを言っているのは両者にも分かっていた。 「あんた、本だろう?」 「一体、何のことだ?」 「声で気付いちまったんだよ。俺にあんたは倒せない」 「お前の父を殺したのは私だぞ?────ゼウスボルケーノ」  村人に怪しまれないように魔王はルドルフを、再び、石畳に転がした。ルドルフの身体に掠り傷だけが増えていく。 「く……、違う。とっくに気付いているさ。親父は不慮の事故で死んだんだ。代わりにあんたが俺をここまで育てた。俺に生きる目的を与えた」  剣を支えにルドルフが身体を起こす。 「……村人に怪しまれるぞ?私を倒せ」  村人に怪しまれ魔王の仲間だと思われれば、ルドルフが今まで積み上げてきた信用や功績、努力がすべて水の泡になってしまう。生き辛くなってしまう。出来るだけ悪い顔を崩さないように魔王は言った。 「俺にはあんたを倒せない」 「私にも無理だ!」  まるで親子喧嘩をするように睨み合いながら、ルドルフは黒い本を強く握った。
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