48人が本棚に入れています
本棚に追加
「さあ、来い!死にたいのか?────ゼウスボルケーノ!」
何度も、何度も、何度も、魔王は同じ呪文を繰り返し、ルドルフを石畳に転がした。だが、ルドルフは反撃をしない。
「何故、反撃しない?」
そう言ったのは魔王だったが、村人たちもざわつき始めていた。離れていて声は聞こえないが、同じことを言っているのは両者にも分かっていた。
「あんた、本だろう?」
「一体、何のことだ?」
「声で気付いちまったんだよ。俺にあんたは倒せない」
「お前の父を殺したのは私だぞ?────ゼウスボルケーノ」
村人に怪しまれないように魔王はルドルフを、再び、石畳に転がした。ルドルフの身体に掠り傷だけが増えていく。
「く……、違う。とっくに気付いているさ。親父は不慮の事故で死んだんだ。代わりにあんたが俺をここまで育てた。俺に生きる目的を与えた」
剣を支えにルドルフが身体を起こす。
「……村人に怪しまれるぞ?私を倒せ」
村人に怪しまれ魔王の仲間だと思われれば、ルドルフが今まで積み上げてきた信用や功績、努力がすべて水の泡になってしまう。生き辛くなってしまう。出来るだけ悪い顔を崩さないように魔王は言った。
「俺にはあんたを倒せない」
「私にも無理だ!」
まるで親子喧嘩をするように睨み合いながら、ルドルフは黒い本を強く握った。
最初のコメントを投稿しよう!