黒い本の勇者

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「勇者様、どこに行かれるのですか?」 「……死体を始末する」  無表情で涙を流しながら、ルドルフは森の方に歩みを進めた。黒い本も忘れずに持っている。  いつから、この本はこんなにも軽くなってしまったのだろうか、と思う。肩に担いだ魔王も、さほど重たくはない。いつの間にか、ルドルフは魔王よりも逞しくなっていた。 「本当に、死んだのか……?」  暫くして辿り着いた月が大きく見える崖の上、ルドルフは魔王を担いだまま、呟いた。 「おい、起きろよ!」  魔王の身体を岩の上に転がし、ルドルフは怒鳴った。本当に怒っているのだ。勝手に自ら死を選んだ魔王に。 「おい!」  自分を見捨てずに育てておきながら、今更捨てようとした魔王に。 「おい!魔王!」  黒い本でルドルフが魔王を打とうとした時だった。 「……っ、喧しいぞ……」  ゴホゴホッと咽ながら、魔王が岩の上で目を覚ました。気を失っていただけなのだ。 「本当にお前は……」 「何笑ってんだよ?」 「よく、あんな状態で……」  あんな状態とは魔王に身体を操られた時のことだ。 『何があろうと私は不滅だ!!』 『やめろ!!』 『……ゴフッ……』 『駄目だ、絶対に死なせない。────レナート!』 『……成長したな……』  身体が自由になってから直ぐに、ルドルフは魔王に呪文をかけたのだ。 「本当に成長したな……」 「あんたのお陰だ」  照れ臭そうにルドルフが肩を竦める。 「ただ、昔からお前は泣き虫だな」 「仕方ないだろう?」  魔王は動かず、大量に出血していたため、ルドルフは非常に不安になった。それが、あの涙の理由だ。 「あんた、もう勝手に死のうとするなよ?」 「当分の間は無理そうだ」 「あんたなあ!」 「冗談だ」  傷から魔力を大幅に失った魔王は、また長い間、本に封印されることになった。その本を持つルドルフは黒い本の勇者と呼ばれ、魔王と共に生涯、色々な場所を旅した────。
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