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ハッと目を覚ます。
僕は芝生の上に胡座をかきながら座っていた。
手にはいつの間カメラが握られていた。
さっきまでのは夢だったのだろうか。
頭をガシガシと掻きながら立ち上がり、体中に付いた草を払い落とす。
眩暈と頭痛はもう消えていた。
まだフワフワした頭で大きな桜の木へと歩み寄り、六分咲きの桜を仰ぐ。
満開になるのはまだ先だろう。
と、ほおに冷たい雨の雫が触れた。
ポツポツと降り始めた雨が徐々に強くなってゆく。
これでは撮影もお開きだ。
大切なカメラを濡らすまいと急いでケースにしまい抱きかかえる。
撤収する前になんとなしにもう一度桜の木を見上げる。
随分高い箇所に一輪だけ咲いていることに初めて気が付いた。
その一輪はどんよりとした雨空を背景に、精気を放たんとばかりに恐ろしいほど美しく咲いていた。
先の彼女との別れを思い起こさせるような光景だった。
僕は鼻をスンと鳴らし、冷たい雨が降る中、家へ向けて駆けだした。
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