0人が本棚に入れています
本棚に追加
この地域に、写真を撮ることが好きな女の子がいた。
女の子はあまりにも綺麗なここの桜をカメラに収めようと、真夜中の誰も居ない公園へと出掛けた。
女の子は自分だけがこの大きな美しい桜を占領しているという優越感に浸っていた。
途中でふと、桜の木に登って撮ったらどんな景色が撮れるだろう、と考えた女の子は中腹まで登り、そこから撮影をした。
それはもう夢中で撮っていた。
あまりにも夢中だったので宙に投げだされてもすぐには分からなかった。
そう、突風が吹き、登っていた木全体が大きく揺れ、安定しない姿勢だった女の子は枝がたわんだと同時に滑り落ちたのだ。
花びらと共に地面に向かって落ちながらも、カメラを守ることだけは忘れなかった。
そんな女の子にとって賢明な判断は仇となる。
首から掛けていたカメラを外そうと紐を勢いよく引っ張るが、不幸にも引っ張ったのはストラップだった。
紐はたちまち短くなり、捻れた紐により首が強く締まる。
と同時に地面に叩きつけられる。
あまりの衝撃に目を見開く。
見開いた視線の先には闇の中に咲く真っ白な桜の花が広がっていた。
誰も居ない、冷たい深夜の公園と、声も出せず意識を手放してゆく女の子。
どうなったかは、想像出来るだろう。
だが、女の子にしか分からなかったことがある。
それは、寝転がって見上げる桜はとても綺麗なのと、最期に見た桜は自分の精気を吸い取っているかのように生気を放っていたことだ。
最初のコメントを投稿しよう!