0人が本棚に入れています
本棚に追加
語り終えた彼女は愁いを帯びた顔でふうっと溜息を吐いた。
「ねえ、その話って本当にあった事なの?」
けれど、ここまで詳細に語られた女の子が誰なのか見当がつく気がする。
彼女は僕からフイと視線を外す。
「もう大分時間が経ってるんじゃない?そろそろ帰った方が良いわよ」
わざとなのか、そうじゃないのか、質問に答えずにそう言って立ち上がる。
時間の流れをすっかり忘れていたが、空の色は一向に変わらない。
まるで、この二人だけが写真で切り取られたような空間だった。
「さあ、かえったかえった」
体ごと向こうの満開の桜に向けたまま彼女は僕との距離を空けるように歩いて行く。
そのまま桜と彼女が溶けてしまいそうな気になる
「ちょ、待ってよ!」
追い掛けよう立ち上がると急に眩暈に襲われる。
「ッつ……」
酷い頭痛に次いで視界が暗くなってゆく。
動けずにいると彼女がスッと振り返り、切なそうな顔で囁いた。
「話を聞いてくれて、ありがとう」
目からは一滴が光に反射しながら落ちた。
その言葉を聞いた僕は、体の糸がプツッと切れたように後ろへ倒れながら意識を手放した。
最初のコメントを投稿しよう!