【 一、狩人 】

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【 一、狩人 】

「兄ちゃんを倒す!」  いつものセリフとともにやってきた六歳の甥。  強くなる為に兄ちゃんを超えなければいけないみたいな感じのことを、三歳になった辺りから言い始めたのを覚えている。  バトル開始の合図は無い。  いきなり全力で飛びかかってくるので気を抜くと危険だ。  まだ力の加減を知らない園児の乱打は結構痛い。しかし攻撃を避けると、しょんぼりさせてしまう。  防御に徹してしっかりと食らってあげるのが大事なのだ。  頃合いを見て甥をヒョイッと抱き上げ、お姫様抱っこの様な形でガッチリ固めて動けなくするのがいつもの流れである。  そして甥のほっぺの感触が最高すぎるあまり、自分の頬を擦りつけてしまうのは避けられない現実。  抱っこされるのが恥ずかしいお年頃の甥は、「赤ちゃんじゃなーい!」と腕の中で大暴れ。 「もう赤ちゃんじゃなーい! うおおおお!」と、この時ばかりは凄いパワーを発揮して脱出する。 「抱っこさせてくれよー!」 「嫌だー!」 「うれしいくせにー!」 「うれしくなーい!」  謎の押し問答をしながらリビングでドタバタと鬼ごっこ。  必死に逃げる甥を、ここぞとばかりに華麗なステップで捕まえ抱き上げ頬をスリスリ。  そんなこんなでお互い遊び疲れ、「また兄ちゃんに勝てなかったよ……」と甥が負けを認めて戦いは終わる。  はしゃいで満足した甥は「やっぱこれだよねぇ」と、カルピスをゴクゴクと一気に飲み干し、幼稚園の遠足の話をしてくれた。 「この前うどん狩りに行ったの! うどんいっぱい取った! 兄ちゃんもうどん好きでしょ!」と、凄い楽しそう。  満面の笑みで語ってくれるので、聞いているこっちも楽しくなる。 「なるほどそうか、うどん狩りか。良かったな」 ……うどん狩り?  ぶどう狩りのことだと気づいて笑った。
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