【 二、尾行 】

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【 二、尾行 】

   九歳の姪が習字教室に通い始めのだと妹から聞かされた。  すでにピアノ教室にも行ってるので二つ目の習い事。「送り迎えも大変だなぁ」と言うと、「習字教室は家から歩いて五分くらいだし、わざわざ送り迎えしないよ」などと予想だにしなかった答えが。  まだ九歳の女の子が夕方に一人で……  震え上がったよ。 「危ないじゃん! 何かあったらどうすんの!」 「はあ? アホかっ! もう一人で行けるっつーの!」   妹に一喝されたが、「本当に大丈夫なのかい」と面倒臭い心配性っぷりで引き下がらず。 「そんなに心配なら今度こっそりついて行ってみればいいじゃない」と言われたので、そうすることにしました。  習字教室の日。  姪が玄関を出たのを確認するや、その時を待ち構えていた俺も出発。十メートルほどの距離を保ちついて行くことに。  はじめてのおつかい状態である。  家を出てすぐ、姪が「ランッラランッ」と、何やら元気よく歌いながらスキップを始めたではないか。そのご機嫌な後ろ姿に感動して泣きそうになった。  習字教室までの道のりの安全を確認したので帰宅すると、ニヤニヤした妹が待ち構えていて。 「ちょっとこの動画見てごらん」と、渡されたスマホの画面に目をやると、姪の後ろを忍び足でついて歩いているマスクを付けた黒いニット帽と黒い革ジャン姿の男が……  怪しすぎる! 警察! 警察早くきてー!  姪と甥は、『尾行していた俺が、尾行されている動画』を何度も見て大笑いしていたという。  お兄さんの活躍により、後ろにも気をつけなければいけないと、子供たちは学んだのだった。
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