【 四、正月 】

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 箱根湯本に到着し駅を出ると、街は箱根駅伝目的の観衆で賑わっていて応援用の旗が配られていた。好きなだけ持っていってくださいと言われたけど、好きなだけ旗を貰ったところで処分に困る。  せっかくだからと二本だけ貰うことに。  周りを見ると十本も貰ってる人がいて驚いた。旗の数が多ければ応援パワーも上がるのだろうか。  目的も無くなんとなく箱根湯本をふらふらと歩き、饅頭とかソフトクリームとか揚げかまぼことか目に付いた物を買って散歩番組みたいに適当な感想を言いながら食った。  箱根は五回目。五回も来れば近所のコンビニに行く感覚と同じようなもんで、無駄にダラダラしてしまう。  今回はいつもと違うルートで楽しもうってことになり、ロープウェイや船は使わずバスだけで移動してみることにした。バス縛りの旅。  とりあえずバスに乗り大涌谷に向かったのだが、しばらくして「渋滞のせいでここから九十分以上かかります」とバスの運転手が突然のアナウンス。続けて「早く行きたい人は大涌谷まで歩いて三十分で行ける場所で降ろします」的なことを言い出しバスの中は騒然となった。  こういう想定外のトラブルも旅の醍醐味。三十分の散歩を楽しむのも悪くないと思いバスを降りた。  バスを降りて数歩進んだところで、俺はスマホをバスに置き忘れたことに気づき「だああっ!」と変な声を上げた。あまりのショックで倒れそうになりましたよ。  友人の携帯でバス会社に電話するも留守番電話サービスに繋がるばかり。 「警察! 警察に電話するしかない!」と軽いパニック状態の俺に対して、「落ち着いてください警察は何もしてくれません」と友人は冷静だった。  今まで生きてきて財布や携帯など大事な物を外で紛失したことが一度もない俺は、スマホをバスに忘れるという未体験ゾーン突入で気絶しそうなくらい精神状態ヤバかった。 「盗まれて一巻の終わり」という不吉な文字が頭の中を駆け巡る。  バスを降りた場所で三十分くらいジタバタと足掻いていると、次のバスがやってきたので運転手にスマホの件を話すと、俺たちが乗っていたバスに連絡してくれてスマホの無事が確認できて一安心。  携帯電話が盗まれない日本の治安の良さに感謝。  スマホが保管されている箱根園に着いたのはそれから一時間後のことだった。
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