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【 三、台詞 】
ピーターパンをご存じだろうか。
俺は知ったような顔をして生きてきたが、実はどういう話なのかよく知らない。
「大人になりたくない」などと急に言い出した夢見がちな男の子が、突如現れた怪しい妖精に誘われるがまま一緒に旅立ち。
辿り着いたのは子供たちが遊び呆けてる国。そこでフック船長率いる海賊団に因縁つけられ、てんやわんやの大騒ぎ。
と、いった感じの物語だった気がする程度のぼんやりした情報しか持ち合わせていない。多分間違っているのだろう。
そんなピーターパンの劇を幼稚園のお遊戯会でやるのだと、六歳の甥が教えてくれた。
来年小学生になるから幼稚園での最後のお遊戯会である。これは見逃せない。
「絶対見に来てくれよな!」と言わんばかりの勢いで抱きついてきたので、こっちもテンションが上がり甥の脇をコチョコチョくすぐってやると、「いやいやそれ違うでしょ。今大事な話をしてるでしょ」と真面目に注意されてしまった。
「で、何の役をやるんだ?」
「フック」
「フック!?」
「そうフック」
「フック凄いじゃん!」
「でもフックは敵だよ」
俺と甥の間で言葉のフックが飛び交った。
めっちゃ良い役じゃないかと驚く俺に、「そうでもないかなー」とクールにすまし顔。
そういう態度はどこで覚えるのだろう。
聞くと、本当はピーターパンをやりたかったらしい。
でも立候補したのが十人以上もいて、誰にするかは立候補者同士の話し合いで決めなきゃいけなくなって。
「なんか時間掛かりそうだし、面倒臭いなぁ」と思った甥は、迷うことなくフックに変えたのだという。
即ピーターパンを諦めたおかげで、フックの座を射止めたその決断力に将来性を感じた。
フック船長ともなれば当然出番も多いはず。
六歳に大量のセリフが覚えられるのだろうかという心配があった。
本番の舞台でセリフを忘れたりしたら確実に泣くだろう。
甥が失敗して泣けば、それを見た俺も泣くだろう。
お涙祭りが開催されてしまう。一大事だ。
「ダンスもほとんど覚えたし簡単だよ」と頼もしいことを言ってくれる。
「口を大きく開けてハキハキと喋るんだよ。遠くまで聞こえるように腹から声を出すんだ」と、何もわからないくせに偉そうにアドバイスをしてみました。
そして、お遊戯会当日。
緊張の幕が上がり、軽快な音楽と共にピーターパンが始まった。
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