くう

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それはまだ、私が小さい頃のお話し。 私の母は猫が嫌いだった。 道端で出会ったその子猫を置いて行くには忍びなく、私はこっそりと家に連れて帰った。 もちろんすぐにバレた。 元の場所に置いてきなさいという母。ごねる私。 たまたま早く帰った父が味方してくれて、その子猫はうちの子になった。 「くう」 それがその子猫の名前になった。 初めての猫の世話に右往左往する私。 色々あったけど、楽しい毎日だった。 遊び盛りのくうは、よく私と遊んだ。 母はそんなくうがやはり嫌だったのか、わざと外に出してしまったこともあった。 しかしその度に私はくうを探し出した。 そんな生活をしていたせいか、くうは半野良生活に慣れてしまい、家を空けることが多くなっていった。 外で出会うくうも可愛かった。 そんなある日のことだった。 学校から帰ると母が言った。 「くうみたいな猫が車に轢かれてたみたいよ」 一瞬、何を言っているのか分からなかった。 母を問い詰めた。 母もよくは見ていないという。 それらしき猫が道端で転がっていたと。 私はその場所に急いで駆けていった。 嘘だと願いながら。 聞いた場所には、すでに何もなかった。 近所の人が片付けてしまったのか、それとも母の見間違いだったのか。 見間違いであることを祈り、私は家に帰った。 何日も何日も、くうの帰りを待った。 でも、くうは戻ってこなかった。 しばらくして、夢を見た。 くうが家に帰って来た夢だった。 あまりに鮮明であり、私は夢なのか疑ってしまったほどだ。 だけど、目覚めてもくうはいなかった。 少しして、初雪が降った。 くうは雪を見ずに逝ってしまったのだなと、ふと思った。 数年後、色々な本を読み、気付いた。 夢を見た時期、あれは49日頃ではなかっただろうか。 くうがきちんとお別れの挨拶に来てくれたのではないのだろうかと。 自分の中で、とても納得できる答えだった。 今でも雪が降る度に思い出す。 1歳にもならずにいなくなってしまったくうのことを。 短い間だったけど、とても楽しい時間をくれたくうのことを。 そして今、私の膝の上には、くうとは毛色の違う可愛い猫が眠っている。
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