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 カシャ。 シャッターの音がして、目が醒めた。  「あら、結構早い。普通の人はもう少し時間が掛かるんだけど」  カシャ。 どこを見る間もなく、彼女に視線が釘つけになった。  「やっぱり面白い人、音が無い」  肩をフワフワと揺らしていて、不思議な魅力を持った人。  「ここで起きた人って、いつも雪にびっくりして音を立てるの。色々な人がいるけど、大体みんな同じ音」  降る雪と同化しているような、柔らかい動作でこちらに振り返る。首から下げた黒いカメラが異常なほどになじんでいた。  「君はカメラを持ってないんだ。ほんとに珍しい」  相手の返答を待つにしては、とても奇妙な間があって、すぐに口を開いた。  「そっか、それならしゃべれないね」  終始なにを言っているのか理解できなかった。それなのに僕の関心は彼女以外のどこにも向かないし、それが当然だと考えている自分に違和感を抱くことはなかった。  声が出ないことにも、寒さを感じないことにも疑問を持つことはなかった。  「じゃあこのカメラの意味を説明するね。持てるかどうかは、そのあとにわかると思うよ」  多分立ち上がったのだと思う。多分、というのは立ったにしては、どこにも力を込めた意識や込められた感覚もなかったのに、視線が上がっていったからである。  「このカメラはね、生者の感情を写すことができるの。対象の人物があなたのことを想ったときのイメージを抽象的に写すの」  いきなり何を言い出すかと思えば、やはり意味がわからないことだった。  生者がどうとか、カメラで感情を写すとか――そういえば周りは真っ白で何もない。彼女の傍に枯れ木が一本、下は雪が一面に広がっているだけ。  ただただ真っ白な世界。  「カメラが、出てこないね」  パキン。  唐突に枯れ木の枝が折れた。  ふぁさっと雪の上に静かに刺さる。  「残念、面白い人だったのに」
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