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一面の雪は、景色も音も静寂に染める。朝焼けに包まれた街を見下ろしても、どこか空虚だ。
ほんの数時間前まで燃えていた祭りの炎は、雪に沈んで場所もわからない。そろそろ潮時かなとリュリュは腰掛けていた岩から立ち上がった。
ふと見下ろした手袋の中の手は、凍え切っていて、握る感覚もぎこちなかった。それなのに、しめった手袋がやけに重く冷たく感じてしまうのは、落ち込んだ気分のせいだろうか。
視界が不意ににじんだ気がして、瞳から涙がこぼれ落ちないように上を見上げたリュリュの元に、白い世界には異質の真っ黒な鳥が舞い降りる。
「リュリュ、今年も来なかったのか?」
岩に降り立った鳥から紡がれたのは、しっとりと低い男性の声だった。
淡々とした話し方の中に、気遣いが入っているのに気付くくらいには、リュリュと使い魔のコクの付き合いは長かった。
「大丈夫よ。だって、魔女の寿命は長いもの」
コクの問いにはっきりとは答えず、軽く口角を上げた。それは、笑顔と呼ぶにはあまりにもぎこちない。
魔女としての長い時間を過ごすのに充分な魔力も、肉体もある。しかし、リュリュの心は孤独にはあまり強くはなかった。
そんなリュリュの孤独を癒せる、たった一人の相手は、なんの力も持たない人間だった。
魂は巡る。人間の命は儚く、リュリュは彼を何度も看取り、何度も待った。そして、今も待ち続けている。また来世で、彼のその言葉だけを信じて。
しかし、これまで20年も待てば現れた彼が現れないまま、30年近い時が経った。
彼と出会い、そして遠いところへ旅立つ彼を見送った祭りの夜が、またひとつ過ぎ去っていった。
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