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翼を左右に広げ、シャルロッテは高らかに笑う。
「くはははは! 惑え、慄け、跪け!」
たとえ魔王と言われても、強ち間違いではないかもしれん。
人間化した姿を知っていれば、戯言に過ぎないと分かるのだが。
相手がベビードラゴンならば、空中戦という訳にもいかない。メインはシャルロッテに任せ、俺は魔法で援護に専念するとしよう。
最初こそ尻込みした様子を見せたベビードラゴン達だが、主人の指示で火球攻撃を再開した。
迷いなく俺だけを標的として放つ辺り、良い判断をする。
だが、まだ火球のコントロールが甘いようだ。
その狙いとは裏腹に、シャルロッテへ命中する。
ベビークラスとはいえ、火球の速度は中々のものだ。もっとも、外皮に傷一つ付けられなかったようだが。
鬱陶しそうにベビーを見下すシャルロッテ。
「何だ、火球の扱いも知らぬのか……こうするのだ!」
大きく口を開くと、とてつもない大きさの蒼い火球を放つシャルロッテ。
訓練だと言っているだろう。余りの熱に、皆引いている。
闇魔法で瞬時に火球の目前へと移動し、刀で切り払った。容易に霧散する辺り、多少は手を抜いていたようだが、些かやり過ぎだ。
「力み過ぎだ、シャルロッテ」
「む、そうなのか? 訓練とやらに合わせてやるのは難しいものだな」
そして突然、人の姿に戻るシャルロッテ。
一体どうしたと言うのだ。
訓練は終わっていないが──そう思っていたが、背後の気配で理由を察する。
振り向けば、ベビードラゴンを含む全員が、魂の抜けたような顔をしていた。
騎士団長に至っても、額に大粒の汗を浮かべている。
「ご、ご苦労だったね、二人とも。新人の時に大いなる壁を知る事は、その壁を乗り越えるための大事な道標になる」
そう言って、騎士団長は俺達の肩に手を置いた。
その刹那。
「気安くわらわに触れるでない」
シャルロッテの平手打ちが、騎士団長に決まってしまった。
どうして何かとやらかさねば気が済まないのだ。
お陰で、魂の抜けかけた者が一人増えてしまった。
「ん? すまぬ、力加減を誤っ……うぐ!?」
罰として頭に拳骨を入れたが、今度はシャルロッテがぎゃんぎゃんと泣き始めた。
先程も思ったが、孤立無援とはこの事だ。
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