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やはり、数というものは恐ろしいものだ。
何せ四十名程も居るのだ、それだけで俺を囲む包囲網が出来ている。
頼みのシャルロッテは腹を空かせて座り込んでいるし、孤立無援といった所か。
「行きます! ジークさん!」
一人の男が、ランスを構えて突進して来た。切っ先を躱し、襟を掴んで放り投げてやる。
「無用だ。わざわざ攻撃の合図はいらん」
有難いと言えば有難いが、これも訓練だ。
勢いよく投げすぎたか。地面に落下する前に、男は失神したようだ。
包囲網の中、じりと後退した者が一名居る。
「臆するなら、いっそ逃げろ。中途半端など、戦いの役には立たん」
油断していたのか、俺が懐へ侵入するのを許してしまったようだ。しっかりと鎧で防御された胴に一蹴を放つ。
手加減はしたつもりだが、鎧を砕いてしまった。ふと、背後で魔法の詠唱が行われている事に気付く。
「凍て付く刃を散開せよ、アイス──」
「遅い」
彼女が魔法の詠唱を終わらせるより、俺が印を組む方が速い。
氷の属性魔法が放たれる前に、頭上に火球を生成した。魔法は、より強い属性に食われる事が多々ある。
「魔法の弱点は、発動の遅さだ。自分なりの解決方法を見出すといい」
再度新たに印を組み、火球を消して水の属性魔法で彼女を弾き飛ばした。
しかし、休む間もない。
今度はベビードラゴン達から火球の集中砲火だ。
この包囲された状況では、中々厳しいものがある。一つ一つを斬り落とすことで、何とか対応はしているが。
そろそろ打開策に出るとしよう。
「シャルロッテ!」
闇からパンを取り出し、地面に突っ伏しているシャルロッテに向けて放り投げる。
こんな時のために収納しておいた非常食ではないのだが。
がばりと起き、しっかりとパンを受け取るシャルロッテ。
「む、このしっとりとした歯応え……ふわりと抜ける甘さ。並のパンではないな」
違う。俺が求めているのは、パンの評価ではない。
そして更に言うなら、それは並のパンだ。
火球を捌きながらだというのに、下らない事を考えさせるんじゃない。
「ん? 気付けば主よ、楽しそうな事をしているな。わらわも混ぜよ!」
シャルロッテが竜化し、黒い魔力波が吹き荒ぶ。
その隙に俺は跳躍し、シャルロッテの背中へと着地した。
「これは訓練だ。本気を出すなよ、シャルロッテ」
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