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橙の電車2
今日は朝から冷たい雨が降っている。窓枠の付いた橙の電車を朝からベットの上で見詰めている。ベットの上の小さな棚はもう描き終えた画用紙が積み上げられている。母が来ないと新しい画用紙はもう数日分しかない。ベットの中ではひと形に切った紙を立てて物語の演出をしている。その顔もクレヨンで描くのだ。雨の日は一日中ベットの中でこうしている。
だが今日はお昼を食べると非常階段に出る。やはり誰も出てきていない。半分ほど雨がふきつけてくるのだ。橙の電車がゆっくり駅に入ってくる。
「朝は来なかったね?」
いつの間にか少女が後ろに立っている。前は気が付かなかったが毛糸の帽子を被っている。
「帽子が気になるのね?」
と言うと、
「見たい?」
と微笑む。
「名前は?」
「ひろし」
「ひろし君だけに見せてあげるよ」
帽子を取ると半分ほど毛が抜けていている。
「薬が強すぎた見たい。もう生えてこないのかどうかも分からないようだわ。私はかえで」
かえでは画用紙を拡げてみせる。やはり橙の電車を描いたようだ。駅から動き出したばかりの先頭車両がにゅうーと飛び出していて、運転手の顔がしっかり描かれている。
「私には運転手が見えるの」
その夜母が新しい画用紙とクレヨンと5年生の教科書を持ってきた。
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