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橙の電車6
夢の中でかえでの物語の中にいた。山の中で一人で暮らす少女が王子様を待っている。毎日森の動物たちと遊んでいる。1枚の絵を見ているだけで色々なことを思い浮かべる。かえではこうして何年も病院の中で一人で生きてきたのだ。子供ながら胸が熱くなる。
この熱さは何なのだろう。今日は珍しく母が朝から来ている。着替えを鞄に入れ替えている。
「勉強はしている?」
「ええ、はい」
私は母が苦手だ。妹が出来てから私は常に2番手になった。今回も妹が伝染病にかかって私にうつしたが、妹が軽いと分かったあの時の母のほっとした顔を今も覚えている。
「また橙の電車?いい加減卒業して勉強しないと妹に負けるわよ」
部屋の入り口にかえでが立っている。母が帰るまで毛糸の帽子がゆっくり動いている。2時間ほどで小言を1か月分言い終わって帰っていった。かえでは無言で非常階段に向かう。
「ひろし君も大変ね」
「あの物語面白いよ」
「話変えたね?でもここにいたら外のことはどうでもいいのよ」
もうすっかり桜は散っている。
「かえではお母さんは?」
「あの人は私を生んですぐに離婚して私はおばあちゃに預けられたきりよ。もう会わなくなって3年くらいになるわ。私は余計な子なの」
余計な子か。いつの間にか妹に何でも負ける兄になっていた。
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