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マンションを出ると、翼は、とぼとぼと歩いた。 ブラウス一枚だと、やっぱり秋の夜は寒いなぁと思いながら腕をさすった。 パンティだけで外にいたら、かなり寒いはずだと、さっき徹の家のベランダにいた女性を思い出した。 少し歩いていると、自然と涙が込み上げてきた。 マンションを出るまでは、泣けなかった。それなのに、出てきてからは、涙が溢れて仕方がなかった。 悔しさと、切なさと、哀しさとが入り混じり口を押さえ嗚咽した。 あれでも半年間付き合った男だ。 半年前、 『好きだ』と言われて、春先のお台場の公園でキスをした。それから付き合いだした。だが、のっけから噛み付くように激しいキスをされて少し驚いたのを思い出す。 映画を見た帰りに、あれは確か4回目のデートだ。渋谷の裏通りにあるエアコンが埃臭いラブホで抱かれた。天井にある鏡を見て興奮するどころか、何となく嫌で目をそらした。 それから、お互いの家を行き来するようになり普通のカップルみたいに週末をどちらかの家で過ごした。いや、割合としては徹の家で過ごすことが多かったか。徹は、とにかく面倒くさがりだから。 たまには意見が噛み合わない時もあった。 でも、それは些細な、わざわざ喧嘩するような事じゃないように思えた。 だから、パスタの気分の日にラーメンが食べたいと言われればラーメン屋に行ってコテコテの豚骨ラーメンを食べた。 約束のデート日に頭痛がしても、港にやって来た戦艦を熱く語る徹に付き合う形で、興味も無いのに見に行った。 それなのに、私が楽しみにしていた美術館巡りの約束の日。体調が悪いとドタキャンされても文句もいわなかったし、しょうがないと諦めた。 相手に合わせるのは、好きだからだし、お互い様だと思って過ごしてきた。
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