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さっき自分より先に徹に切られる半裸の女が憐れで、自分よりかわいそうに思えてジャケットを貸した。
だが、その時ジャケットを落ちないように押さえた女の右手が何の気無しに視界に入ってきたのだ。細い薬指にはめられた小さな赤い石がついた指輪。
その指輪に翼はゾクッとしてしまった。
もしかしたら、徹からもらった指輪じゃないのだろうか?って直感で感じたからだ。
そうだとしたら、かわいそうなのはどちらの方だろう。
翼は、徹と付き合ってから今まで何のプレゼントももらった覚えがなかった。
同期だからという理由からデートもすべて割り勘だった。
婚約指輪も結婚指輪も必要ないと言っていた男が、あんなに冷たくあたる女にはプレゼントをしていると考えたら…。
仮定の話で、実際はそうじゃないかもしれないが、なんだか凄くムシャクシャしてきてしまう。
徹とはワインもあまり飲んだ覚えがない。オシャレと金には縁遠い人だと思ってきたのだ。
だがその考えも、もしかしたらだいぶ間違えていたのかもしれない。
なぜ、あんな男を好きだと思い、半年も付き合っていたのだろう。同期だから、気楽で緊張感もない。友達みたいな感覚で付き合っていたような気もする。
30歳になり、彼氏がいないなんて、あまりにも寂しいから付き合っていた。そうだ。きっと、それだけの理由で一緒にいた男なのだ。
翼は、そんな風にして徹の悪いところ、気になっていた点を無理に思い出そうとしていた。
いい思い出なんか1つもなかった。全然合わなかったし、嫌な男だったそう思えば割と悲しくないはず。そう考えたからだ。
腕をさすりながら早足で歩く翼の肩に、パサッと何かが被せられていた。
足を止めると、
「随分と薄着だな、ソバカス。夏に逆戻りでもしたのか」と声をかけられていた。
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