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だが、翼は確かにムカムカして行き場のない怒りを抱えていた。
少し考えてから、目黒のジャケットを落とさないように袖に腕を通して拳を作り、目黒の掌にパンチをくり出してみた。
バシンッ。
割と大きく乾いたような音がして翼は目を見開いた。
「いいぞ。じゃ、右、左って交互に来い」
「いきますよっ!こうなったら、やけよ! 右っ左、右、左、右っ」
目黒の掌にぎこちなくだが、何度も拳をくりだす翼。腕を通した目黒のジャケットが大きくて邪魔だった。
どんどんパンチを出すうちに、翼の拳はジンジンとしびれてきていた。
拳を構えたままパンチを出さなくなった翼に目黒が
「もう、終わりか?」
と聞いた。
夜の歩道で私は上司と何してんだろ?
他人から見た自分の姿を想像した翼は我ながら可笑しくて、笑いこけそうになってきていた。
「ははっ、もうっ…バシン、こんなの、おかしいですよっ、意味が…バシンわかりませんよ。はははっ、バシン」
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