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ばかみたいだ。 あんな男を好きだったなんて。どうかしていた。 それでも……。 本社の広域営業促進部に移動してきてすぐの頃、営業成績を上げられない担当営業所に対して悩んでいた時にマメに声をかけてくれたのが徹だった。 『元気出そうぜ』『飲みに行くか』と気にかけてくれた。 馴れ馴れしい感じは、鼻についたがそれでも嬉しかった。 彼氏に他の女がいるのに全く気がつかなかったことも、プロポーズされて多少なりとも浮かれていたことも、彼氏の本性も見抜けず、安上がりな女だと笑われていたことも、夜の道端でボクシングみたいな真似事をしていることも、 全部、自分がばかみたいに思えてくるんだけど。 翼は歯をくいしばり握った拳に力を入れる。 「意味なんかわからなくてもいいだろ。気にするな」 目黒の大きな掌にまっすぐくりだされた翼の小さな拳が当たる。 「気にしなくてもいいですかー…バシン」 車の音に紛れて拍手に似た音が辺りに響く。 「いーよ」 「なら、チーム長が私を待っててくれても……バシン。気にしませんよ?それにチーム長とは私…付き合いませんよ?いーんですか?それでも…バシン」 「それは」 掌に繰り出された翼の拳をぎゅっと掴み目黒は眉間にしわを寄せる。 「すこーし、まずいな」 「どーしてですか?気にしなくていいんですよね? すぐ意味もわからず次の恋愛なんて出来ませんよ。それに私…今度恋するなら、本当に好きで好きでたまらないって人を探したいんです」 握った翼の小さな拳を、目黒は、ゆっくりと離した。 「……」 考えこむように黙ってしまう目黒。 「チーム長?」 「まあ…今はまだ、仕方ないか。俺はソバカスを待つことにするよ」 「だから待たれましても…」 「待つ。まあ、黙って待つわけじゃあないからな。お前には俺を好きになってもらわないといけないから、一応それなりに努力するかな」 「努力ですか? チーム長が?」 「ああ、努力していつかお前のその口から」 目黒は、言葉を切り翼の目線に自分の目線の高さを合わせた。 相変わらず力のある瞳が翼をしっかり捉えていた。
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