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自分だけ先に飲み始めた徹。 「何にもなかったって。あの人、下着姿だったじゃない」 「ああ、だから、やる前だったってこと」 徹はサラダをトングで混ぜ小皿に取り分ける。 普段、サラダを取り分けることなんか絶対にしない男、それが千葉徹だ。絶対にやらないようなことを今日はしている。 徹がサラダをわけるのをじっと見ていた。 徹は、ひとつの皿を翼の前に置き、もうひとつの皿を自分の前に置く。 なんだ。 やろうとすればやれるのね? やれるなら、いつもやればいいのに。 やる? やるって言えば、今、徹は居酒屋で『やる前』とかどうとか言ってたっけ。 全く下品すぎる。 なんてことを言い出すんだろう。 「…ま、前って…徹は、『やる』そのぅ…『前』ならいいと思ってるの?」 「ああ、結果な」 肩をすくめてみせる徹が、なんだか知らない男みたいに遠く感じてきた。 「…ねぇ、聞いてもいい?」 「うん」 サラダを食べ始める徹。 「私のこと好きなの?」 「なんだよ、今更。好きだよ」 「安上がりな女だから好きなの?」 「…?なんだよ、あーそっか熊本との話を怒ってんのかよ」 「……」 「いいじゃん、理由なんかさ、俺はお前が好き。だから結婚する…それでいいだろ?」 いいわけがない。 翼は、ビールもサラダにも当然お通しにも手をつけていなかった。 そんな翼に構うことなく、自分だけ先に飲んで食べる。特に翼の様子を気にしてる風でもない徹を見てると、将来もこんな関係が続いていくような気になってしまう。 「私、徹とは結婚しない」 「なんで。あの女とはやってないって。なのになんで結婚しないんだよ」 「…つもりだったでしょ?」 「あ?」 箸をとめて、翼を見る徹。 「私が来なかったら、やるつもりだったくせに!」 やるとか下品だってわかってる。 でも、どうしようもなく自分の中で怒りが沸騰していた。 徹の行動をはっきりと強い口調で攻めてから、ガタンと音を立て翼は椅子から立ち上がった。 近くのテーブルにいた客が、その音に驚いたようにして翼を見上げる。
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