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次の待ち合わせには、三十分ちょっと遅れて行った。ドキドキしていた。さすがに、笑顔では迎えてもらえないだろう。怒られなくても、遅れた理由ぐらいは問いただされるはずだ!……たぶん……
タカくんの車の助手席側から、伺うように車内を見た。
「っ!」
タカくんは、泣いていた。文庫本を、読みながら……
そういえば、本屋さんの手書きポップに書いてあった。『ラスト、あなたは感動で、涙を我慢できない』と……
タカくん、文庫本を読み終えたのね。……感動、したのね……
助手席側から、温い目でタカくんを見ていると、本を閉じたタカくんと目があった。
タカくんは、恥ずかしそうに笑いながら、車のロックを解除した。
その日はもちろん、連絡なしで遅れた事について、何も言われる事はなかった。
「もう一回……もう一回、三十分遅れよう!!」
前回までは、文庫本に邪魔されたけど。もう読み終えてしまったから、タカくんの気を逸らしてくれるものはないはず。
今度も三十分遅れて行けば「ずっと待たせるなんて、どういうつもりだ?」てなるのだ。
私が勝手にしているこの不毛な戦いを、止める人はいない。タカくん以外には……
今回も、待ち合わせ時間から三十分経過してから、家を出た。
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