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「じゃあ、やっぱ見間違いだったんだって」
確たる証拠も無い。わたしとしてはそう言うしかない。だが、Kはどこか楽しそうな表情でハッピーを見つめて、
「それで考えたんだ。しっぽのある生きものは皆、しっぽを分かつ力があるんじゃないかって」
犬でも猫でも、ライオンでも。そしてしっぽが分かれると妖怪になれる。
「じゃあ、しっぽの無い人間は妖怪にはなれないってことか」
「そうだね」
そんなことを話しているうちに鍋の中身が減ってきた。Kは締めの具材を取りにキッチンへ向かう。
わたしは今一度背後のハッピーに向き合った。ハッピーはいつの間にか目をさまし、そのくりりとした瞳でわたしを見つめていた。
やがてハッピーが頭をもたげた。長々と見つめたせいで、おやつでも貰えると勘違いしたのか、きらきらと目を輝かせて身を起こす。
興奮のせいか、しっぽがぐんと立ち上がった。
「あっ」
わたしが小さく声を上げた次の瞬間、Kがキッチンから戻ってきた。
「どしたの」
「ハッピーが――」
戸の前できょとんとしているKの足元に、ハッピーがじゃれついてゆく。
「違う違う、これはうどん。お前は食べられないの」
煮え立つ鍋の湯気の向こう、わさわさと高速で振られるしっぽは、分かれて見えるがちゃんと一本しかなかった。
終
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