悪魔の果実 (1)

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 * 女はそれ(・・)を見つけた瞬間、まるで金銀財宝を掘り当てたような錯覚さえ抱くほど興奮した。 日当たりの少ない山間部の奥地にある森の中は平地より湿度が高く、麓の街中で感じる山風とは違ってよりもずっと肌寒い。 山脈から流れ込んでくる冷たい冷気が身体の芯から熱を奪っていたが、女の興奮は醒めることを知らない。 継ぎ接ぎだらけのみずぼらしい衣服に身を包んだ女の顔には深い皺が刻まれており、年の頃は4、50。 低い位置で束ねられた髪は所々白く染まり、それなりに重ねてきた年月の長さを物語っている。 だが、女にとって外見の劣化など、ほんの些細なことに過ぎないほど目の前のことに夢中だった。 岩陰に隠れるようにひっそりと佇む木。その枝先についている熟れた果実は艶々とした輝きを放っている。 女は目の前にある赤黒く輝く小さな宝石を一心不乱に摘み取り、日々の労働で小さな切り傷の耐えない指先を不気味に染めていた。
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