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すると、興奮のあまり乱雑に摘み取っていた女はうっかり小さな宝石を潰してしまい、顔に赤黒い飛沫がかかった。
「……っ!」
次の瞬間からみるみるうちに視界が赤く染まり、女は違和感を覚える。
蔓草を編み込んだ籠から手鏡を取り出し、女は自分の顔を見た。
「これは……これはっ……! 素晴らしい! これこそ本物の女神の果実……! 」
疲労しきった身体は歓喜で打ち震え、森の奥から聞こえる獣の咆哮さえも女の耳には届かないほど興奮に支配されている。
「これさえあれば……これさえあれば私は……私は……!」
女は確信を持って赤黒く輝く小さな宝石をいくつも摘みとり、大切そうに蔓草の籠の中へしまいこんだ。
籠の中で山になる小さな宝石は女の心を高揚させ、家路を急ぐ足取りは途端に軽くなった。
疲労など、もう微塵も感じない。
「これで私は、幸せになれるわ……」
それが禁忌の箱を開けてしまったとも彼女はまだ知らずに、女の鼻歌が森に響いていた。
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