悪魔の果実 (1)

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すると、興奮のあまり乱雑(らんざつ)に摘み取っていた女はうっかり小さな宝石を潰してしまい、顔に赤黒い飛沫(ひまつ)がかかった。 「……っ!」 次の瞬間からみるみるうちに視界が赤く染まり、女は違和感を覚える。 蔓草(つるくさ)を編み込んだ(かご)から手鏡を取り出し、女は自分の顔を見た。  「これは……これはっ……! 素晴らしい! これこそ本物の女神の果実(・ ・ ・ ・ ・)……! 」 疲労しきった身体は歓喜で打ち震え、森の奥から聞こえる獣の咆哮(ほうこう)さえも女の耳には届かないほど興奮に支配されている。 「これさえあれば……これさえあれば私は……私は……!」 女は確信を持って赤黒く輝く小さな宝石をいくつも摘みとり、大切そうに蔓草の籠の中へしまいこんだ。 籠の中で山になる小さな宝石は女の心を高揚させ、家路を急ぐ足取りは途端に軽くなった。 疲労など、もう微塵(みじん)も感じない。 「これで私は、幸せになれるわ……」 それが禁忌(パンドラ)の箱を開けてしまったとも彼女はまだ知らずに、女の鼻歌が森に響いていた。
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