194人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
*
世界大戦が終結した動乱の世は、先の未来を急ぐように目まぐるしい文明開化を遂げていた。
だが、民間人の生活には大きな変化はなく、街中に敷き詰められた石畳の道路には、今日も貴族や民間の商人を乗せた馬車が忙しなく走る。
そんな街中を走行するワインレッドのガソリン式自動車は、一際熱い注目を浴びていた。
貴族の馬車を一回りコンパクトにしたようなクラシカルなオープンカーで、艶のある赤いボディは傷一つなく光り、車体を縁取るようについているシルバーの装飾はまばゆいばかりに輝いている。
「まいったな……」
車を運転していた若い男は、困ったように嘆息を零しながら路肩へ車を停車させた。少し癖のある栗色の髪を持つ男は、翡翠色の瞳で周囲を見渡し、その表情は不安げに揺れている。
まるで使いに出た子どもが迷子になったような、そんな眼差しだった。
最初のコメントを投稿しよう!