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男はクリーム色のフロックコートと揃いの胴衣を身に纏い、胸元には熟れたベリーのような色のスカーフがささっていた。
すんと背筋の伸びた品のある面持ちは、彼が従者などではなく、その車の持ち主であることを伺わせる。
「まったく……、おばあさまもとんだ使いを頼んだものだ……」
男──ヒース・スタンリー・ウォルコットは、心底憂鬱そうに頭を抱えながら車を降りた。
赤煉瓦で建てられた店が並ぶ帝都の大通りは、祭日でもないというのに多くの人で賑わっている。
「さて……目当ての店を探すか」
ヒースが人波を見渡していると、周囲にはふくふくと美味しそうな香りが漂っていた。
香りの元を辿るように視線を流すと、どうやらヒースのすぐ左手にあるパン屋から漂っているらしい。
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