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その店名には見覚えがあった。
ウォルコット家の女中たちが嬉しそうに話していたパン屋の名前が確かそれと同じものだった。
最近開店したばかりのパン屋なのだが、いつも長い行列が1ブロック先まで続いていると噂の名店だ。
だが、今日に限っては行列が短い。5分も並べば店内へ入ることが出来るだろう。
「ちょうどいい、並んでみるとするか」
ヒースは空いてきた腹を撫でながら、行列の最後尾に並んだ。
『西の帝王』と呼ばれる異名を持つほどの帝都西部の大物であるウォルコット伯爵家の子息であるヒースが、従者もつけずに帝都中心部まで買い物に出ているにはワケがあった。
それは、朝食を食べ終えたばかりの今朝のことだった───。
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