悪魔の果実 (1)

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ジェンソンとカトレアは若いころから仲睦まじい夫婦だったと聞く。 ジェンソンは経営していた会社をヒースの父に引き継いでからのんびりとした暮らしを夢見ていたが、引退した矢先に肝臓の病気を患い、今は屋敷の敷地内にある別邸の一室で静かに過ごしている。 仕事にも精力的ではつらつとしていた夫が、引退後に病を煩ってから朝から晩まで部屋にひきこもっている様子を見ていると、祖母も長年人生をともに過ごした妻としての寂しさが募るのだろう。 実際、ヒースが元気な祖父の姿を見たのはもうしばらく前のことで、祖父が好きだった裏庭の手入れもすることなく笑顔も失ってしまった。 ヒースは元気だったころの祖父を回想して懐かしむように嘆息を零すと、思いついたように顔を上げて言った。 「おじいさまが育ててらっしゃるものはないんですか? ほら、ここにもこれだけ多くの草花が植わっていますし、ハーブのひとつやふたつくらい……」 「うちには花ばかりで、ハーブなんて(たぐい)は育てていなかったと思うわ。それに、私やリリーではあまり詳しくなくてね……お医者様がハーブティーを飲むことを勧めてくださったから飲んでもらおうかしらと思ったんだけど」 カトレアは頬に手を添えて悩ましげに言った。
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