百年の恋

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百年の恋

彼女の言葉に私は一瞬戸惑いを覚えた。 「一緒に逃げましょう。誰も知らない、どこか遠くへ。」 戸惑いと共に、えも言われぬ喜びを感じたことも確かだ。  身分違いの恋だった。私は、彼女の家族に長年仕えて来た使用人であり、彼女のことは幼少の頃よりお世話をしてきた。そんな彼女に私が特別な感情を抱くなど、許されるものではないと私はこの恋を胸に秘めてきたのだ。ところが、彼女も同じ気持ちであることを告白され、私の長年の思いは奇しくも報われることになった。  だが、周りは決してそれを許さなかった。特に彼女の父親であり、私の雇い主である主人は激怒した。彼女は私と結婚したいと父親に願い出たが、勿論猛反対された。 「お前は、何を言っているのかわかっているのか?」 「お父様、私は本気です。どうか彼と結婚させてください。」 彼女の家は代々偉人を輩出してきた名家である。有名な政治家、著名な作家など、名前を聞けば誰でもが知っている名家である。大事な一人娘が、使用人風情と結婚したいと言うのだから、反対されて当然である。     
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