紫紺の館

＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊

そんな金額、スカーフ1枚に出せるはずはない。
「じゃ、じゃあ…やめ……」
「お出ししたお茶」
「え？」

チリン。

「お出ししたお茶。お通ししたお部屋。お聞きになったお話。今手にされている商品……総額で、ですわ」
「わ、かりま…した……」
そう──だった。
そう。

あれは、忠告だった。

「ありがとう…ございました……そう、お伝えください……」
「かしこまりました」
サラサラと綺麗にスカーフが畳まれ、シンプルな白い袋に丁寧に入れられる。
チンッとレジが鳴り、祐美が差し出した三枚のお札の代わりにレシートが渡された。
品代。
三万円。
それだけしか書かれていない。
「あ…あの……」
「はい？」
チリンッと軽やかな音と共に、店員の頭が傾げられた。
「あの…あの人は……」
「はい」
「じょ、女性…ですか……？」
シン……と音が止んだ。

「ふっ………」
顔をパッと伏せた店員は、クククッと肩を震わせて笑いをこらえた。
「ふくっ…くくっ…お、お伝えいたしますわ……」
「あ、あの…す、すいません…そ、それはいい、です……」
「いえいえ。きっともう少し身なりに気を使っていただけるようになりますから、ぜひお伝えさせて下さいな」
「いえっ！本当にっ！」